2019年11月4日(月祝)、代官山蔦屋書店のガーデンギャラリーにて開催した「LAND ROVER デザイントークショー」では、ゲストにランドローバーのチーフデザインオフィサーである、ジェリー・マクガバンを迎え、NEW DEFENDERのデザインについてじっくり解説された。どのデザインも偶然ではなく必然で成り立っているということ。ランドローバーの歴史やブランドの世界観とはどう形づくられるのかが語られた。
オリジナルデザインスケッチ
新型ディフェンダーのサイドビュー
ランドローバーのブランドで差別化されたNEW DEFENDERのデザイン言語とは
11月2日(土)に開催されたラグビーワールドカップ2019の決勝戦。そしてその盛り上がりが収まりきらない三連休最終日の代官山蔦屋書店では、表彰式で「ウェブ・エリス・カップ」を運んだ、NEW DEFENDERのプロトタイプを披露した。W杯会場中の視線を釘付けにしたクルマだけに、代官山蔦屋書店でもすこぶる注目度が高い。1948年にデビューしたDEFENDERを、71年ぶりにリニューアルするにあたり、デザイン面ではどのようなことを模索したのか。展示されたNEW DEFENDERの3ドア ショートホイールベースモデル「DEFENDER 90」を眺めながら、チーフデザインオフィサーである、ジェリー・マクガバンが詳細を話した。
「実は近年、市場がランドローバーファミリーの新しいモデルを待っており、関心が高いことを認識していました。それを実現するには、オリジナルのDEFENDERという過去を尊重しつつ、新しい世界や世代に向けて、関心を持ってもらえるプロダクトが必要です。エレガントでモダンかつ新しいものを生み出す試みとなりました。ご存知のとおり、ランドローバーには3つの違ったファミリーブランドがあります。『RANGE ROVER』のキーワードは洗練性。『DISCOVERY』は多用途性。『DEFENDER』は耐久性、走行能力というベクトルとなっています。なので、デザインするにあたっての言語がDEFENDERは、ほかと極めて違っているのです」
1948年にランドローバーの「シリーズ1」が英国内の農場向けに開発され、その後世界中の山岳地帯やジャングルといった過酷な環境で進化。その耐久性と走破性が評価されてきたDEFENDER。NEW DEFENDERにはその歴史とデザインが息づいている。
直線的な力強さと佇まいをデザイン これまでで一番タフなランドローバー
「実車を見ていただくとお分かりでしょうが、NEW DEFENDERはとてもモダンなスタイルをしています。ホリゾンタル、つまり横方向のウエスト、ショルダー、シルラインに対して、縦方向のリアとフロントの直立した感じが対照的で、さらにミニマリズムを追求しています。フロント、リアの短いオーバーハングや、高いシルもオフロードで高い能力を発揮するために、意図的に高くしています。すべてのお客様がオフロードを走るわけではありませんが、NEW DEFENDERは悪路で高い性能を発揮する、これまでで一番タフなランドローバーと断言できるでしょう」
エクステリアではルーフ、ウエスト、アンダーボディと3つの直線的なラインを入れて力強い佇まいを表現。流れるようなルーフラインとアルパインライト・ウィンドウからは初代モデルの歴史を感じさせる。
CASE、MaaS時代、さらに重要となるランドローバーのデザイン哲学
ジェリーは、ランドローバーがどのようにして、ブランドとして進化をすればいいのかを模索。そのデザインバイブルを12年前に引き継いでいる。ここにランドローバーのヘリテージ、ヒント、哲学が盛り込まれており、チームでそれを継承したと続けた。
「かつての歴史や哲学など、尊重するところは尊重し、さらに今のお客様の観点から、どれが重要なのかを考え、ランドローバーのデザイン哲学というものを作りました。それまでの4×4スペシャリストというイメージから、ラグジュアリーで、プレミアムかつ望まれるクルマを作り上げることに変化させたのです。これがデザインのバックボーンとなり、イヴォーク、レンジローバースポーツ、ヴェラールとして実現させてきました」
今回のもう一人のゲストであるカーデザイナーの中村史郎氏によると、「CASE、MaaSといったクルマをとりまく環境の変化により、クルマがコモディティー化するといわれているが、すべてがそちらに向かうわけではない。デザインとはなんなのか? カッコいい、悪いだけでなく、NEW DEFENDERがこの形にたどり着くには、歴史や考えなどの必然的な理屈があり、それがそれぞれのブランドにある」と解説。それについてはジェリーが次のように応えていく。
「お客様が恋してくれるもの、好きになってくれるクルマを作ることが重要で、そうなるとデザインが重要になります。デザインはブランドを体現するもので、中村史郎さんのおっしゃるとおり、デザインは原理、原則に乗っとり産まれていくものです。今後、環境に対する規制や課題が厳格になるにつれ、サスティナビリティが重要になってきますが、デザインの役割は人生を豊かにすることだと考えています」
「いいデザインはプロポーションが重要。具体的には長さに対する幅、高さ、ホイールベースといったバランスです。一見するとエレメンタルで、シンプルさが際立つデザインですが、細部まで見ていくと、とても洗練された印象をうけるかと思います。フロントフェイスはシンプルでジオメトリーなフォルムを採用し、フェンダーが美しく、サイド全体につながってショルダーのようにしています。このデザインにより力強さを際立たせているのです。さらに、サテンフィニッシュでタフさを強調するとともに、クルマの耐久性にも役立っています」
「よく言われることですが、デザインするにあたってはエンジニアリングが重要となります。なので、デザイナーとエンジニアの関係は、発言権や決定権において平等なのが理想で、クリエイティブな関係を保つためには、お互いがプッシュしあわなければなりません。ランドローバーの場合は、ブランドアイデンティティとしてラグジュアリーとプレミアムを追求しているので、デザイナーが力を持ちやすいのですが、いいデザインを目指していくことは同時に、誠実さと洗練性が必要になってきます。また、ラグジュアリー性やプレミアム感がメーカーの間で拮抗してくると、それぞれにブランドのDNAが重要となり、それがマーケットの差別化になっていきます。デザインがエンジニアリングと関わり合うことで、形だけではなくフィーリング、ドライビング、走破能力といった機能にもデザインが影響を与えていくこととなります」
クルマの形は変わっても、その役割とブランドイメージは残り、さらに重要になるとも語るジェリー。デザインとともに技術も、人の行動様式を変えていくだろうと付け加えた。2020年、新時代の直前に代官山で披露されたNEW DEFENDER。横開きのリアテールゲートや背面スペアタイヤなど、初代DEFENDERの特徴を新しい形で取り入れたデザインの意味を知ったイベント参加者達がトークショー後もじっくりと実車を眺めていた。
代官山蔦屋書店にて展示された新型DEFENDER
ラグビーワールドカップ2019の閉会式でリーチ・マイケル氏が運転して登場したもの